第45回 研究会(2021.06.25)
本日は、氷見先生が学校訪問研修で行った学級活動⑶アの授業を基に、研究会を行いました。氷見先生から授業構想や展開についてのポイントを指導案を基に説明いただいた後、授業動画を視聴し、協議を行いました。
題材名は、「夢 ~目指せ!なりたい自分~PART1」です。
以下は、話し合われた主な内容です。
・子供にとって身近な存在である親へのインタビューを行い、そこから考えたことを出し合うことで、大人はどのような気持ちで働いているかということを知ることができる。そしてそこには、職業が異なっていたとしても、実は大切にしていることに共通項があることを見い出していくことができる。我々会員一同が小学生の時はこのような授業を受ける機会がなかった。このような授業が子供のこれからの生き方を考えていく転機になるのではないか。
・氷見先生の熱い学級経営や子供たちへの眼差しが伝わってきた。それぞれの子供が自身の保護者へインタビューしたことが重要なポイントとなっているが、保護者の中には自分の職業を子供に伝えられない複雑な家庭もあるのではないか。しかし、どのような職業であっても、「大切な家族を養うため」という見方であれば、働く者の思いとして共通し、必ず子供に伝わる。いずれにせよ、担任と保護者がしっかりと繋がり、強い信頼関係が構築されていないと実現し得ない取組である。
・グループ活動での子供たちの意欲がすさまじかった。グループ活動では、多様な価値が出ると予想し、少人数のグループを多く構成したこともよかった。事前に各グループのリーダーによるリーダー会議を何度か行うことにより、各リーダーは責任感をもってグループの話し合いを深めようとしていた。
・授業終末には、授業前は「なりたい自分」を思い描けなかった子供が、思い描けるようになっていた。また、ある子供は授業前の「なりたい自分」としてある職業を設定していたが、授業後は、「〇〇な職業」といったように職業を通して大切にしたい価値までに考えを深めていた。
・本授業は、「働くことを哲学する」といった、職業観・勤労観に関わるキャリア教育のど真ん中を行くような取組であった。しかも、子供にとって最も身近な存在である自分の親が「働く」ということをどのように考えているのかを調べ、互いに出し合い、聴き合い、自分の中で大切にしたい価値を見付けていく学習であった。このような学びを、今後の学校教育では意図的に行っていく必要がある。提案された授業のように、保護者や友人との対話を通して、多様な価値やそれを大切にする理由に触れることが大切である。そのような過程を経て、自分の中で大切にしたい「価値」や「在りたい自分」を掘り起こしていくことで、「自分の人生を進んでいくためのコンパス」を、子供たちは徐々に明確にしていくことができる。
・本授業は学級活動⑶の時間として行ったが、単元としては学級活動と総合的な学習の時間とのカリキュラムマネジメントの中で、時間をかけて行った。一方で、学級活動⑶として年間配当時数の中で割ける時間はそう多くはない。深い学びに繋げていくためには、一単位のみの授業では難しい側面があり、その辺りの授業時数との兼ね合いをどうしていくかは、今後の課題である。
さらに協議を経て、以下の話題が挙がりました。
1.なりたい自分の設定について
・子供にとって遠い職業を「なりたい自分」として描かせて単線的にその子がキャリアを描くようにイメージさせるよりも、今の「学校生活の中で働く」というより身近な視点でなりたい自分を描くようにすることでもよいのではないか。親たちの思いを引き受けて、今の学校のリーダーとしての役割の中で生かすといったことでもよいのではないか。
一方で、このような学びを経て職業に「あこがれる」ということも素敵なことである。なので、片一方では、将来ビジョンとして描くキャリアも重要なのではないか。
2.個の自己決定か集団での決定か
・学級活動⑶では、最終的に個の意思決定へと繋いでいく。となると、今までのように扱う内容が決められており、最終到達点であるゴールが決まっている授業とは、目指すものが異なってくる。
つまり、授業者側が、授業観を転換していかなくてはならないのではないかということである。今までの授業では、学級集団での話合いを通してある一定のゴールに辿り着くといった学習過程がよしとされてきた。
しかし、キャリアを扱う学級活動⑶は、個々の子供の意思決定がゴールとなり、そこには向かうゴールの個別性が存在する。個々の意思決定に繋がるための対話が重要であり、そこには必ずしもクラス全体で話しあって練り上げることや、到達すべき同一の「まとめ」に向かって集団で追究していくことは、必要ないのかもしれないということである。
この点については、教師集団の中で、授業に対する概念やイメージの大きな変革・問い直しが必要となってくると言える。
3.小グループでの対話の場面
・本授業では、小グループでの対話で子供たちが本気になっていた。教師がハブとなって子供たちの考えを繋ぎ合わせる部分と、個々の子供が考えを深める小グループでの対話の時間との兼ね合いが難しい。子供たちの実態にもよるが、今後の学級活動⑶の授業では、子供の実態はもちろん理解した上で、子供に任せる部分をおおいに確保した授業展開も重要となってくるのではないか。
【 辻井教授からの指導・助言】
・まず、担任と子供との関係性がよい、それがベースとして重要である。子供たちはなぜ変容し得ていったのか。その要因としては、
①相手のよさを見ようとしていること
②互いを批判せずに見守っていること
③間違ってもよい、どんな捉え方をしてもよいということが、子供の安心感へ結び付いていたこと
・本授業では、グループ活動が山場であった。動き始めたエネルギーの勢いがすさまじく、子供たちは皆、主体的に対話を行っており、深まっていった。そう考えるとグループ活動の後に、各自のワークシートに書かせて終わってよかったのかもしれない。保護者のインタビュー動画は、また後日でもよかったのかもしれない。
・大変面白い授業であった。授業者である氷見先生からの話により、挙手する子供を指名する順序の意図が明らかにされた。
今回の氷見先生の授業のように、本来、挙手する子供を指名する場合、そこには全て意図がなければならない。闇雲に指名し、自由に指名していくのは、授業を組み立てているとは言えない。つまり、教師の指名とは全て意図的なものでなければならないということである。それら全ての指名を意図的につむぎ合わせていくためには、学級成員全ての実態を細かに把握し、掛け合わせる想定をもっていなくてはならない。そして本時では、想定した指名順序・意図的指名が子供たちには見えない、参観者にも見えないように、自然な流れで授業を進めていく、それがプロの技である。
今回の研究会は、大変中身の濃い議論となり、会員一同、深い学びとなりました。学級活動⑶の授業は、まだまだ実践が少なく手探りですが、挑戦して取り組むことにより、見えてきたことが多くありました。
氷見先生は、今まで本研究会を通して明らかとなったことや蓄積されてきたエッセンスを、授業の中に多く盛り込んで実践してくださいました。特に今回の議論の中では、私たち教師が長年積み重ねてきた対話を通して一つのゴールを導き出すといった授業スタイルを、今一度問い直す必要もあるのではないかといった、大きな課題も見えてきました。
文部科学省に示す、「学びの個別最適化」にも係る、我々教師の、授業に対する意識改革も求められているのかもしれません。
個々の子供の意思決定に繋がる授業展開とはいかなるものか、既存の授業スタイルにとらわれ過ぎずに見つけていくことが必要であると感じました。
今回、研究会としてこのような学びに繋がった背景には、授業者の氷見先生が、京都市立岩倉北小学校の三浦清孝校長先生や氷見市教育総合センター副主幹 谷内口まゆみ先生に、事後指導を自らお願いし、そしてお二方から快く教えていただけたという背景がありました。お二方からの指導助言に関しまして、研究会として、改めて深く感謝を申し上げます。
また、このように授業を提案し、自ら教えを乞う氷見先生の学ぶ姿勢からも、私たち会員が学ぶことが数多くありました。氷見先生、本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。
村田 夏樹
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