第36回研究会(2020.10.09)
内容は、先日の学校訪問研修会で行われた氷見先生の社会科「水産業」の提案授業についてです。氷見先生は、社会科とキャリア教育の連結を考え、「水産業」の学びとキャリアの視点である各子供の「なりたい自分」と往還を図りながら本単元を進めてきました。また、本単元の学びを進めるにあたって、新湊漁港の漁師であるNさんに協力を得て、実際の漁師として働くNさんのビデオレターを単元の学びの中に何度も盛り込みながら授業を行ってきました。本提案授業は、単元の最後の部分でした。
話し合いでは、
①45分の授業の最後で、水産業の単元での学びと「なりたい自分」をつなげるのは、参観者からしたら唐突な感じがしたがどうか。
②「なりたい自分」を考える時に、「〇〇が出来る自分」といったことでなく、「なりたい職業」について考えさせたことに意図はあったのか。
③本時のまとめの際に、漁師として働く人の「思い」や「願い」について焦点を当ててまとめることで、その後Nさんの漁師としての生き方から自分が学んだことへの思考へと、子供の意識がつながりやすかったのではないか。
④低学年のキャリア教育については、どのように考えていけばよいのか。低学年では、職業と結び付けるのは難しいし、「なりたい自分」を思い描くということも実際なかなか難しい。
など、様々な意見が出されました。
それらについて氷見先生からは、
①参観者からしたら唐突な感じを受けたかもしれないが、授業者と子供たちとの間では、単元の最初の段階から、「なりたい自分」とつなげて学んでいくこと、その際Nさんの協力を得て、Nさんの漁師としての言葉や生き方から学びながら自分へとつなげて単元の学びを進めていくことを共通理解していた。だから、自分と子供との間では、何ら唐突というものではなく、自然で思考もつながっていた。それは、教室の壁面掲示に示した今までの学びの経過からも見て取れると思う。教科と特別活動で扱うキャリアを結びつけるといった意味では、まだまだ吟味すべき点がありえる。
②今回は、漁師としての職業人として生きるNさんの言葉や生き方から学ぶといった内容だったので、「5年生最後の時点でのなりたい自分」や「理想の6年生としてのなりたい自分」といった「比較的近い将来のなりたい自分」ではなく、あえてNさんと同じ「職業人としてのなりたい自分」を思い描くようにした。ただし、ただの職業といったものでなく、できるだけ自分に引き寄せて考えることができるように、その職業に向けて現段階の自分ががんばることを行動目標として立てて実行したり、どのような価値を大切にしたその職業人になりたいかといったことまで考えるようにしたりした。これらのことは、前年度までの本研究会で明らかとなったことを生かしたものである。社会科ではなく、一方で特別活動の内容としてそのように取り組んできたことで、社会科で追ってきたNさんの言葉が、子供たち自身の「なりたい自分」と引き付けられるものとなったと感じている。職業と結び付けて考えることは、子供にとって難しいとは思うが、このようにして結び付けてやることで、自分のこれからの生き方を考えるきっかけとなっていくのではないか。
③今回の授業を行うに当たって、その部分が非常に悩んだ。情意面でまとめると、社会科の学びとしては成立しない。だから、あのように情意面がないものとして、社会科の教科として一旦まとめた。そしてその上で、Nさんからのビデオレターを流し、プラスアルファとしてNさんのメッセージを「なりたい自分」と引き付けて考える時間をもった。社会という教科性のなかで「なりたい自分」といった特別活動的な内容を扱っていくためには、まず社会科としてのまとめを行う必要がある。そこが難しさであった。つまり、今回は漁師のNさんを追ってずっと水産業を学んでおり、その学びの最後のまとめとして情意面でまとめると、社会科の学びではなくNさんの生き方といった特別活動や総合的な学習の時間の内容の学びになってしまう。社会科の水産業一般としてまとめるためには一人を追って情意面でまとめてはいけない。「社会科としてのまとめで終えたらよかったのではないか。『なりたい自分』とつなげて考える部分は、後日、特別活動の学習として行ったらよいのではないか」との意見もあったが、水産業の学びの中で漁師として生きるNさんの言葉や生き方と共に学んできた子供たちにとって、社会科のまとめとしてその時に受け取った言葉にこそ、熱を帯びたものとして各自の「なりたい自分」と引き付けて印象付けるものがあったのではないかと考える。実際にNさんのビデオレターを食い入るように見る子供たちの目や、その後のワークシートの記述からもそのことが見て取れる。
④低学年の子供にとっては、学校、もっと言えば学級が社会そのものである。そのため、その子供たちにとっての社会である学校生活を、より民主的に自治的に行っていく経験こそがまさにキャリアにつながるのではないか。一人一人の子供のよさを生かし、役割を果たしながら、学級を楽しく高め合えるものとして自分たちで作り上げていく、そのための仕掛けや工夫を担任教師がどれだけ行うことができるかである。低学年でのこのような経験こそが、将来大人になった時に、民主的に世の中を創り上げる素地になっていくと信じたい。だからこそ、低学年の学級経営はとても重要であり、いろいろな集団活動を仕組みながら推進していく必要があると思う。
と回答がありました。
以下は、参加した櫻井先生の学びです。
僕は、今回の研修会で特に氷見先生の②の意見が印象に残っています。そして、自分なりにこう解釈しました。
例えば、給食の話です。6年生ともなると、好き嫌いもなく沢山食べられるようになり、毎日NO残飯が当たり前になりますが、1年生はどうでしょう。口に合わない、苦手、初めての味など様々な理由から残飯も少なくありません。ですが、その1年生の頃から「半分は食べてみよう。」、「3粒頑張ろう。」、そうやって味を広げてやることで6年生になる頃には、NO残飯が当たり前になるのではないか。これが、キャリア教育にも当てはまるのかなと考えます。つまり、今の指導を今のためだけに行うのではなく、その子の少し将来・未来を思い描いて行うこと。
「キャリア?なんだそれ?」ではなく、教師が意図して、少し強引かもしれませんが「職業」というもの、さらに「生き方」というものと子供を引き合わせてみます。そして、広げてやります。それが、いつか「自分の将来の職業や生き方」といったものへと当たり前に考えることができるようになるのかなと。
教科とキャリアを横断して行うことは、確かに難しいけれども、子供も私自身も、触れ合っていかなければ考えるきっかけすらできないのではないかと考えます。
これから、私自身右も左も分からないなりに全力でキャリア教育と、そして何より子供たちと向き合っていきたいと思います。
今回の提案授業からは、教科とキャリア教育との連結について非常に多くの示唆を得ることができました。
今回の授業を通して、「担任とNさんの関係」という部分に、子供たちは非常に多くのあこがれを抱いていたということが見えてきました。担任の氷見先生とNさんは、今回の授業を作るにあたって親密に連携を図り、そしてそのことを子供たちに伝えていました。自分たちの学びのための、異業種同士の2人が密接につながって連携を取ったことに対して、子供にとってはあこがれを得たということだと思います。子供にとって身近な大人である教員が、どのように子供に正対し、他の大人・職業人とどのように関わりをもっていくのかといったことが、子供が生き方を考えていく上で、大きく影響を与えるのではないかということも、見えてきました。
今回提案があった社会科は、職業的側面から生き方を追いやすく、「なりたい自分」といったキャリア的視点とも比較的結び付けやすい教科であると言えます。しかしその社会科であっても教科とキャリア教育の連結の難しさを感じる結果となりました。教科には教科のねらいや育てたい資質・能力があり、キャリア教育には育てたい基礎的汎用的能力があります。それら教科とキャリア教育が並列して連結するといったイメージではなく、キャリアという木があり、その枝葉として各教科や道徳、総合的な学習の時間があるといったイメージではないかということも見えてきました。
そのように考えると、幹の部分であるキャリア教育は、新学習指導要領で要(かなめ)としての期待される特別活動が担うことになります。特別活動は各教科との往還が求められるわけですが、その特別活動で新設された学級活動(3)にあっても、各教科とどのように連結していくかといったところはまだ見えていない部分が多いです。
例えば、今回の提案授業の後半の部分を学級活動(3)で扱う場合は、アの内容であるわけですが、今回の提案授業で扱ったような例示がない、つまり前例はありません。さらに、社会科以外の教科を考えると(3)ウの内容が考えられますが、その部分との往還の在り方も検討の余地が多く残されています。
本研究会では、各教科とキャリア教育との横断的連結を考えつつ、要としての特別活動、特に新設された学級活動(3)の在り方についても考えを深めていきたいと思います。
今回の研究会は、前会長である氷見先生が自ら提案授業を行い、先輩教員としての姿勢からも多くのものを得ることができました。子供のキャリアを考えるためには、まずは教員として、一人の大人としてのキャリア(=生き方)が必然と自分たちに突き付けられます。挑戦して授業を行うこと、謙虚に意見を伺うこと、そして何よりも、子供をよりよく伸ばしたい、自分も教師としてまだまだ成長したいという「熱量」を提案授業、そして氷見先生の発言から感じ取ることができました。新たな取組には、賛否両論が浮かび上がるのが常です。しかし、新たなものを生み出すための挑戦をするとき、苦しみ、痛みを伴い、それをあえて全部受け止めてさらなる思考に辿り着く、そんな学びも会として得たように思います。
今回のzoom研究会では、多くの若い先生方が活発に意見を交わし、考えを深めました。一人一人のメンバーが、自分事としてこの研究会での学びを日々の実践に生かし、そして実践を持ち寄って、「子供にとって真に実ある学び」を目指して取り組んでいきたいと思います。
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