雑感 氷見卓也(2020.09.12)
小学校6年生の時、毎月15日に親から1000円の小遣いをもらうのを楽しみにしていた。夏目漱石の顔が描かれたお札を一枚握りしめ、駄菓子屋や本屋へ走ったものである。
「今月は、あの漫画の最新刊が出ている!やっと買える。急がなくちゃ!」
「駄菓子屋へ行って、10円のガムと30円のチョコを買おう」
頭の中に夢の世界が広がった。少年漫画の単行本は1980年代当時、360円くらい、週刊少年ジャンプが170円くらいだったはずである。単行本を一冊買うと、もう残高は640円。これだけを1月かけて、ちょっとずつちょっとずつ駄菓子を買ってすり減らしていたものである。
問題は、新しいガンダムのプラモデルが発売される月である。144分の1スケールで600〜800円くらいしたと思う。意を決して購入した暁には、もう残高は200〜400円になってしまう。そんな月は親に願い出て、トイレ掃除をして5円、玄関掃除をして5円、必死で働いた。
それでも苦しいときは、最後の手段である。祖父の部屋でこの世の終わりかというくらい寂しい表情で体育座りである。
「なんかあったんか。けんかでもしたんか。どうした?」
祖父は心配そうに語りかけてくる。
「小遣いでガンプラ買ったら、お金すっからかんなった。来月の小遣いまでまたんなん。もうやってけん、終わりや・・」
そう言って、精一杯、捨てられた子犬のような切ない表情をつくってみせる。心の中では、「もうひと押し!もうひと押し!」と叫ぶ。
「しゃあないのう。ほれ」
祖父は財布から1000円札を一枚取り出し、渡してくれた。
「じいちゃん、ありがとう」
そう言いながら、切ない表情はまだ崩さない。祖父の部屋の扉を閉めた途端、小躍りして駄菓子屋へダッシュ!
そんな少年時代だった。今の子供たちはどうなのだろう。
公園で汗いっぱいに鬼ごっこをしたり、駄菓子を開けて当たったシールに大喜びしたりしている子供らを今でも見かけることがある。そんなとき、わたしはなんだかほっとするのである・・・。
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